2011年2月の症例解答
No.1 Aty-Ly | No.2 活性化単球 | No.3 活性化単球 | No.4 スメア標本の画像 |
No.5 マクロファージ | No.6 巨大赤芽球 | No.7 巨大赤芽球 | |
Q1 データと標本から推測される疾患をあげて下さい。
A1 ウィルス等の感染症,薬剤性反応(無顆粒球症等),自己免疫性疾患, 血球減少症(白血病,MDS,再生不良性貧血,脾機能亢進症等)等Q2 上記疾患にした理由をあげて下さい。
A2 好中球の減少・顆粒球系左方推移・異型リンパ球・活性化単球・CRPのやや増加; 慢性感染症、薬剤性反応 等 白血球・血小板2系統の血球減少; 自己免疫性疾患、血球減少症(血液疾患、脾機能亢進症)等Q3 診断に必要な検査をあげて下さい。
A3 網赤血球数、網血小板測定;骨髄造血指標で、貧血・血小板数の動向 抗核抗体、補体価等;自己免疫性疾患 各種ウィルス検査;感染症(急性・慢性) 臨床所見・経過の確認;一過性 or 持続性?、薬剤使用状況、脾腫の有無 骨髄穿刺;骨髄造血の評価Q4 骨髄検査から推測される疾患をあげて下さい。
A4 ●骨髄所見 赤芽球系:低形成。巨大前赤芽球を認め、 好塩基性赤芽球以降の分化は殆ど見られない。 顆粒球系:相対的過形成。左方推移が見られ、 明らかな異形成は見られない。 巨核球系:明らかな異形成は見られない。 リンパ系:Aty-Lyが点在性に見られる。。 Phagocyte系:マクロファージの軽度増加及び貪食像が見られる。 ●骨髄総合所見 赤芽球系を除く、顆粒球系・巨核球系の造血は保たれており、 赤芽球癆の所見である。 赤芽球系は特徴的な巨大前赤芽球を認め、 背景にAty-Lyや貪食像を認めるマクロファージが点在性に 見られることから、ウィルス感染、 特にパルボウィルスB19の関与が考えられる。 ●臨床医への報告 骨髄像からパルボウィルスB19関連の赤芽球癆が考えられます。 パルボウイルスIgM抗体の検査確認お願いします。 ●その後の経緯 今回の症例では発熱・好中球減少が主訴で、貧血は認めませんでした。 骨髄穿刺実施したところ、パルボウィルスB19の感染による赤芽球癆が 最も疑われました。追加検査としてパルボB19 IgM抗体の検索をして いただいた結果 “IgM抗体陽性”であり、上記診断が得られました。 細胞形態像として特徴的な“巨大前赤芽球”は、パルボウィルスB19 感染後1週間程度で消失するといわれており、本症例は感染初期だったことが 考えられます。骨髄では赤芽球系造血を認めませんでしたが、赤血球寿命は 120日(半減期60日)であり、貧血が表面化しなかったと 思われました。好中球減少・左方推移、Aty-Lyや活性化単球の出現・骨髄での マクロファージの軽度貪食像はウィルス感染の影響と思われます。 一週間後の検査では、 WBC 3.40×10^3cells/μL RBC 4.43×10^6cells/μL PLT 247×10^3cells/μL となり、末梢血ではAty-Lyや活性化単球を認めませんでした。
赤芽球癆(pure red aplasia:PRCA)
赤芽球癆とは、正球性正色素正貧血と骨髄内赤芽球と 網赤血球の著減を特徴とする症候群のこと。 ヒトパルボウィルスB19感染による赤芽球癆について パルボウィルスB19は赤血球型糖脂質のP抗原を受容体とし、細胞内へ侵入する。 ウイルスが侵入することで赤芽球系前駆細胞の直接障害がおこり、 赤芽球系造血が抑制するのではないかと考えられている。 パルボウィルスB19は、赤血球造血の選択的な障害を生じる 2006-PO基(phosphadiester)に配列する5'-GTTTTGT-3'という塩基配列を有している。 (パルボウィルスB19のP6-promotor領域に配列されている) この配列特異的にエリスロポエチン受容体の遺伝子発現を制御し、 BFU-Eの分化増殖を阻害することが示唆されている。
赤芽球癆の分類
<先天性> Diamond-Blackfan anemia <後天性 赤芽球癆> 1特発性 2続発性 胸腺腫 造血器腫瘍(CLL、LDGL、HD、MM、NHL、CML、AML、ALL、MDS 等) 固形癌(胃癌、乳癌、胆道癌等) 感染症(ヒトパルボウィルスB19感染症、HTLV-T感染症、HIV感染症 等) 慢性溶血性貧血 リウマチ性疾患(SLE、関節リウマチ等) 薬剤・化学物質 妊娠 重症腎不全 重症栄養失調症 EPO治療後の内因性抗EPO抗体 その他(ABO不適合移植後、自己免疫疾患 等) 後天性赤芽球癆の背景は多彩であり、続発性のものには上記のようなものがある。 また、特発性のものは続発性の範疇に属さないものをさす。 感染症に続発する赤芽球癆としてはパルボウィルスB19が最も多い。 続発性赤芽球癆の基礎疾患で最も多いのは顆粒リンパ球増加症 (lumphoproliferative disease of granular lymphocyte:LDGL) である。 ●治療法について ヒトパルボウィルスB19感染症の場合は、対症的に経過観察を行う。 しかし、後述のように免疫不全患者の場合感染が蔓延化することが あるのでγ-グロブリン製剤による治療を考慮する。 ●ヒトパルボウィルスB19感染症による合併症について ウィルスそのものによる障害 ・溶血性貧血におけるaplastic crisis ・免疫不全患者における慢性赤芽球癆 ・胎児水腫 ・・・等 免疫応答における障害 ・伝染性紅斑 ・関節症状 ・皮疹 ・急性腎炎 ・・・等 ●ヒトパルボウィルスB19感染症の問題点 ・流行期には小児だけでなく成人も罹患する。 感染後のウィルス血症の時期に健常成人では50%前後の人が無症状である。 そのため、病院内等の施設内での感染源として紛れ込む場合がある。 ・免疫不全者では慢性的な造血不全を呈することがある。 ・妊娠中に感染し胎児水腫を生じることがある。 ●ヒトパルボウィルスB19感染経路 通常の感染経路は鼻腔・咽頭等を介してであるが、 その他に産道感染や輸血による感染もある。