大分血液検査分野 OHSG

トップ

研修会案内

研修会報告

症例クイズ

症例解答

リンク

日臨技九州支部
卒後研修会

アクセスカウンタ
無料

無料
無料

大分県臨床検査技師会トップ > 血液検査分野トップ > 症例解答 > 201105症例解答

2011年5月の症例解答

Q1 データと標本から推測される疾患をあげて下さい。

A1 三血球系いずれも増加しており、特に赤血球数800万/μL以上、血小板数100万/μL以上で、   反応性増加よりも、骨髄増殖性腫瘍(MPN)が考えられます。   MPNの中でも、PV、ETを最も疑います。

Q2 上記疾患にした理由をあげて下さい。

A2 白血球・赤血球(800万/μL以上)・血小板(100万/μL以上)の増加から、反応性増加よりもMPNが考えやすい。    【鑑別疾患について(末梢血)】  ●反応性増加との鑑別   白血球増多    成熟顆粒球主体で幼若顆粒球は殆ど認めない。CRPは1.30であり炎症性・反応性増加も否定できない。       赤血球増加症の鑑別    赤血球増加症は相対的増加症と絶対的増加症に分けられる。    赤血球数 8.32 ×10^6cells/μL、ヘモグロビン 20.7 g/dL、ヘマトクリット 61.6 % であり、腫瘍性増加が考えやすい。        相対的赤血球増加症;循環赤血球量は増加していないみかけの赤血球増加症。              体液の喪失やストレスによるもの等が分けられる。       絶対的赤血球増加症;循環赤血球量が増加している赤血球増加症。              骨髄での赤血球産生の増加が見られる。              PVと二次性赤血球増加症(エリスロポエチン産生増加による)に分類される。    赤血球増加症の鑑別点    (表1 赤血球増加症の鑑別点)
表1 赤血球増加症の鑑別点
真性多血症二次性赤血球増加症相対的赤血球増加症
循環赤血球量増加ありありなし
白血球増加あり(ときになし)なしなし
血小板増加あり(ときになし)なしなし
好塩基球(絶対数)増加ありなしなし
エリスロポエチン(血清・尿)低下上昇正常
NAPスコア高値正常正常
動脈血酸素飽和度正常正常正常もしくは低下
ヒスタミン値上昇正常正常
血清ビタミンB12上昇正常正常
    血小板増多    PVの50%以上の症例で見られる。    PVの場合40万/μL以上になることが多く、100万/μL以上は腫瘍性を疑う。  ●CMLとの鑑別   末梢血用手法分類では、成熟好中球が主体であるためCMLは考えにくい。   ※慢性期CMLでは骨髄芽球から成熟好中球を中心とする白血球増加が見られる(芽球は2%未満)。    また、好酸球や好塩基球の増加が見られる。         末梢血用手法分類では Eos 4%              Baso 1% と比率としては正常範囲であるが、    絶対数は Eos 1350/μL         Baso 337/μL と増加傾向にある。   ※正常範囲    Eos 0〜10%    Baso 0〜3 % ※絶対数増加の基準    Eos の増加 >500/μL    Basoの増加 >150/μL     末梢血白血球分類・NAP高値・多血であることから、CMLは否定的。    (今回の症例ではCRPが1.30と上昇しているため、白血球増加のみを考えた場合、    炎症反応の関与も否定はできない。)        CML慢性期では多くの症例で軽度貧血が見られる。    重篤感染症であればCRPが高値になることもある。  ●PV,ET,PMFの鑑別  多血であることから、PVが最も考えやすいように思われる。   (PV,ET,PMF,の診断基準は下記のSTDY参照)    

Q3 診断に必要な追加検査をあげて下さい。

A3 EPO値;PVと二次性赤血球増加症の鑑別   骨髄穿刺;骨髄造血の評価(場合によっては骨髄生検を実施;線維化の有無)   Ph染色体の有無;CMLとの鑑別、G-Bnading法やFISH法(G-Bnading法では稀に発現されないこともある。)   JAK2遺伝子変異;PVと二次性赤血球増加症の鑑別   循環赤血球量、動脈血酸素飽和度、VB.12 等

Q4 骨髄検査から推測される疾患をあげて下さい。

A4 骨髄過形成像で、三系統の細胞の増加が見られ、赤血球系・顆粒球系に明らかな異形成は認めない。   M/E比は軽度高値である。MPNで、PV,ETが考えられる。      ※PVの形態所見    骨髄には3血球系統の過形成を認める。    各系統の比率は正常と著しい差は見られない。    赤血球造血の亢進や巨大化した成熟巨核球等が見られる。    PVの少数に線維化が見られることもある。     

【総合所見】

    ・末梢血では三血球系とも増加しており、赤血球系(赤血球数 8.32 ×10^6cells/μL,    ヘモグロビン 20.7 g/dL,ヘマトクリット 61.6 %)が著増していた。   ・骨髄は過形成で、三血球系の増加を認め、各系統の比率はほぼ正常であった。   ・NAPはRATE 100%,SCORE 427と高値であった。   ・エリスロポエチンは、1.0未満 mIU/mLと低値であった。   ・Ph染色体は、G-Banding法,FISH法ともに認めなかった。    ・JAK2遺伝子変異ではTアレル含有率は5%以上80%未満であり、遺伝子型(G/T)のヘテロ型であった。      ・VB.12は、652 pg/mLと正常であった。    以上のことから、真性多血症(polycythemia vera;PV)と診断した。

真性多血症(polycythemia vera;PV)

 PVとは赤血球数及び総血液量の著しい増加をきたし、  白血球及び血小板増加、脾腫を特徴とするMPNである。  PVの一部は急性白血病や骨髄線維症へと移行する。  97%の症例でJAK2V617F遺伝子変異を認め、JAK2V617F変異を認めないPVでは高頻度に JAK2遺伝子exon12の変異を認める。    *MPN…Myeloproliferative neoplasms;骨髄増殖性腫瘍     骨髄における一系統以上の骨髄系細胞(顆粒球・赤血球・巨核球)の増殖を 特徴とする造血幹細胞のクローン性疾患。     MPNの病因として恒常的なチロシンキナーゼの活性化が証明されている。 *JAK2   細胞内シグナル伝達の中心的役割を担うチロシンキナーゼ。  *JAK2V617F変異   JAK2のJH領域の617番目のアミノ酸がバリン(GTC)からフェニルアラニン(TTC)に   置換する遺伝子変異。  *JAK2遺伝子変異により何がおこるのか?   エリスロポエチン、トロンボポエチン、顆粒球増殖因子の刺激なしに高い   チロシンキナーゼ活性が持続し細胞の異常な増殖をきたす。  ●病期分類   WHO2008では以下の3期に分類される。   全多血期(prepolycythemic phase):軽度赤血球増加がみられる。   顕性多血期(overt polycythemic phase):明らかな循環赤血球量の増加がみられる。   多血後線維化期(post-polycythemic MF phase):血球減少、無効造血、骨髄線維症、髄外造血がみられる。     PVの早期では赤血球量が診断基準を満たさない可能性があるので、定期的な検査を行う。  ●予後   無治療PV患者の平均寿命は18カ月と報告されている。   死因は血栓症(30%)、急性骨髄性白血病(15%)、他の悪性腫瘍(15%)、出血、骨髄線維症等。  ●治療   PVの治療目的として以下の3つが考えられる。   ・血球増加による血栓症リスクの軽減。   ・肝脾腫等の臨床症状の軽減。   ・血小板数を減少させ、血小板由来の骨髄線維症惹起物質(PDGF,TNF-α)も減少させ、    消耗期への移行をできるだけ遅らせる。     治療方法としては、寫血療法や化学療法(ブスルファンやハイドロキシウレア等)がある。  ●PVのWHO分類2008診断基準   大基準   1.ヘモグロビン値が男性18.5g/dl、女性16.5g/dlを超える、もしくは赤血球増加を示す他の所見。    ・ヘモグロビン値もしくはヘマトクリット値が、年齢・性別・居住区の高度を考慮した基準値が     99%タイル値をこえる。    ・ヘモグロビン値が男性で17g/dl、女性で15g/dlを超えかつ個々の症例の基礎値(鉄の補充により     補正されない)より2g/dl以上上昇している場合。    ・赤血球量が予測値の25%を超える。   2. JAK2V617Fもしくは機能的に類似なJAK2変異が存在。   小基準   1.骨髄生検において、赤血球系、顆粒球系および巨核球系細胞の著明な増殖により過形成を示す。   2.血清エリスロポエチン低値。   3.内因性赤芽球系コロニー形成。     2つの大基準と小基準を満たす   大基準♯1と2つの小基準を満たす。  ●ETのWHO分類2008診断基準   1.持続する血小板増加(45万/μl以上)   2.骨髄生検にて大型で成熟した巨核球を伴った、主に巨核球系細胞の増殖を認める。     顆粒球系細胞及び赤芽球系細胞の明らかな増殖は認めず。     顆粒球系細胞の左方異動も認めず。   3.PV、PMF、BCR-ABL1陽性CML、MDS及び他の骨髄性腫瘍のWHOの診断基準を満たさない。     PVの除外;ヘモグロビン値とヘマトクリット値に基づく。         赤血球量の測定は必要としない。         血清フェリチンが低下していている場合には鉄の補充によっても、         PVの診断基準までヘモグロビンが上昇しないことを確認する必要がある。    PMFの除外;細網線維やコラーゲン線維増加、末梢血に白赤芽球症を認めない。 PMFに特徴的な巨核球(小型から大型のもの核細胞質比の異常、         クロマチン構造の増加、核が球形もしくは不整に折り畳まれている、密に集簇する)         を伴い、骨髄が過形成を示す、などの所見は認めない。    CMLの除外;BCR-ABL融合遺伝子を認めない。    MDSの除外;顆粒球系・赤芽球系の形態異常を認めない。   4.JAK2V617Fもしくは他のクローナル・マーカーが存在。     JAK2V617Fを認めない場合には、反応性血小板増加の所見がないこと。   1〜4の基準をすべてみたす。  ●PMF(Primary myelofibrosis;原発性骨髄線維症)のWHO分類2008診断基準大基準   1.巨核球の増加と異形成の存在。通常は、細網線維もしくはコラーゲン線維の増生を伴う。     明らかな細網線維の増生がない場合には、巨核球の変化とともに、顆粒球系細胞の増加と     赤血球造血の減少を伴った骨髄の過形成を認めること(prefibrotic cellular phase)。   2.PV、CML、MDSや他の骨髄性腫瘍のWHO基準を満たさないこと。   3.JAK2 V617FもしくはMPL W515L/Kなどのクローナルマーカーの存在。     クローナルマーカーを認めない場合には、炎症や他の腫瘍などによる反応性線維化の所見がないこと。   小基準   1.白赤芽球症   2.血清LDH値上昇   3.貧血   4.触知可能な脾腫     3つの大基準と2つの小基準を満たす。  ●ビタミンB12と骨髄増殖性疾患について   *ビタミンB12の吸収について   食物より摂取されたビタミンB12はビタミンB12補酵素で蛋白と結合されているため、   蛋白と解離しなければ吸収されない。   この蛋白は胃液中の塩酸とペプシンによりビタミンB12から解離される。   解離されたビタミンB12は内因子(intrisic factor) と結合し腸管より吸収される。   吸収されたビタミンB12はTCT,TCU,TCV(TC:trancecobalamin)に結合した形で存在する。   TCTの半減期は9日〜12日、TCUの半減期は数時間、TCVの半減期は約3分である。   *MPNではなぜビタミンB12が上昇するのか?       MPN、特に、CMLでは、顆粒球系が著しく増加しているため、血中では顆粒球系細胞から    産生されるTCTが過剰に増加している。    TCTはビタミンB12を貯蔵する役割があるため、血中ビタミンB12が著増する。   (CMLでは、1500 pg/mL 以上となることが多い。)    PVについては、PV binderとよばれる異常B12結合蛋白(異常TC)が認められる。    PV binderは内因性のビタミンB12を運ぶ力がないため、    血清ビタミンB12がさほど高値ではない場合がある。     

Copy Right Oita Hematology Study Group Co.,Ltd. Since 2011